2014.02.10
2月10日 つもった雪

8日から9日の日曜日にかけ30cm近く雪が積もり、45年ぶりという記録的な大雪になった東京。

 

 

 

 

気候温暖な山口県で生まれ育った私は、日常生活の中でここまでの積雪を経験したのは初めてでした。

土曜日は朝から薄暗い空模様、絶え間なく降りしきる雪がみるみるうちに積もりまるでスキー場のような景色に。 

 

 

 

 

 

ドサッドサッと屋根から落ちる雪の音、繰り返しテレビで流れる交通機関への影響、ご近所総出の雪かきをして雪国に住む方々の暮らしにほんの少し触れたような気が致しました。

雪に慣れない首都圏では、雪への備えの弱さから転倒や事故のニュースも相次ぎます。

 

 

 

 

 

さて、山口県出身の童謡詩人『金子みすゞ』に、『つもった雪』という詩があります。

 

 

 

書道教室で購読している「書教」誌の小学2年生の硬筆課題にこの詩の抜粋が掲載されて、子供達と雪の話題を楽しみながらのレッスンになりました。

 東京の子供達にとって珍しい雪は、楽しくてきれいなもの。

真っ白な雪の世界は、小さな子供の純真無垢な書のようでもあります。

 

 

 

 

 

『つもった雪』    

 

上の雪

 さむかろな

  つめたい月がさしていて

 

下の雪

 重かろな

  何百人ものせていて

 

中の雪

  さみしかろな

   空も地面もみえないで

 

 

 

 

『私と小鳥と鈴と』という詩の「みんなちがって、みんないい」の一節で有名な金子みすゞは明治36年生まれ。

童話童謡雑誌が隆盛を極めていた大正時代の末、4つの雑誌に投稿した詩が全て掲載されて彗星のごとく姿を現します。

西條八十にも認められて躍進しますがその活動に夫の理解が得られず、病気や離婚の苦しみの果てに26歳の若さで自ら命を絶ってしまいます。

 

 暖かいところで育ったみすゞも、この詩に書かれているような壁のような豪雪を実感することはおそらくなかったことでしょう。

しかし、上の雪、中の雪、下の雪をまるで生きているもののように描き、優しいまなざしを向けています。

上にいる人、中にいる人、下にいる人、それぞれが辛い立場にいるんだよと人間社会にも置き換えて、現代の私達にもメッセージを伝えてくれているのではないでしょうか。

 

 

 

 

見過ごしてしまうものへの愛情に満ちた『土』という詩も心に残る詩です。

 

『土』   

 

  こッつん こッつん

 ぶたれる土は

  よいはたけになって

  よい麦生むよ

 

朝からばんまで

 ふまれる土は

  よいみちになって

 車を通すよ

 

  ぶたれぬ土は

  ふまれぬ土は

  いらない土か

   いえいえそれは

  名もない草の

   おやどをするよ

 

 

 

 

 

 雪に翻弄されたり雪を楽しんで眺めたりするだけの私達は、下の雪や中の雪の気持ちまで想いが及ぶでしょうか。

 森羅万象に対して思いやりにあふれたみすゞの詩と、人間の手に負えない自然の驚異ともいえる大雪を体験して改めて考えさせられました。

 

 

 

 

東京都知事選の行われた日曜日、屈託のない子供の心のように白一色で静まり返った投票所の小学校。

一面の雪を目にした子供達の歓声が今にも聞こえてきそうです。

 

 

 

 

未来を担う子供達を健やかに育んでいただけますよう願いつつ一票を投じ、行き交う人と雪道を譲りあいながらそろそろと帰りました。 

大人も子供も、強い人も弱い人にもみんなに優しさが注がれる社会でありますように。

TOP↑